グループ会社間の法律事務の取扱い(弁護士法第72条)

「規制改革実施計画」(平成28年6月2日閣議決定)において、法務省として、「グループ会社間における有償での法律事務の取扱いにつき、弁護士法(昭和24年法律第205号)第72条の規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保するという観点から検討を行い、必要な措置を講ずる。」ものとされていました。

これを受けて、法務省が「親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条」を公表しています。

企業法務の方は既にご承知のことと思いますが、ご確認ください。

親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条

法務省大臣官房司法法制部

弁護士法第72条は罰則の構成要件を定めた規定であるから、もとより、その解釈・適用は捜査機関、最終的には裁判所の判断に委ねられるものである。

そのことを前提に、あくまで一般論としてではあるが、株式会社である親子会社間の法律事務の取扱いに関し、例えば、以下の例に挙げるような親会社の子会社に対する行為については、それが反復的かつ対価を伴うものであったとしても、他に同条の趣旨(最高裁判所昭和46年7月14日大法廷判決・刑集25巻5号690頁参照)に反する事情(紛争介入目的で親子会社関係を作出した等)がない限り、同条に違反するものではないとされる場合が多いと考えられる。もっとも、同条に違反するかどうかは、以下の例に挙げるような行為の内容や態様だけではなく、親会社・子会社の目的やその実体、両会社の関係、当該行為を親会社がする必要性・合理性その他の個別の事案ごとの具体的事情を踏まえ、同条の趣旨に照らして判断されるべきものである。

〔例〕

  • 子会社の通常の業務に伴う契約について、法的問題点を調査検討の上、契約書や約款のひな形を提供し、子会社が作成したものをチェックし、契約条項や約款の一般的な解釈等、一般的な法的意見を述べること
  • 子会社の通常の業務に関連する法令やその改正について、情報提供をし、それに伴う実務上の対応につき一般的な法的意見を述べること
  • 定款や社内規則・規程(就業規則、取締役会規則、内部統制システムやリスク管理体制を定めた社内規程等)について、法的問題点を調査検討の上、そのひな形を提供し、子会社が作成したものをチェックし、一般的な法的意見を述べること
  • 各種行政規制の対応ルールを定めた社内規程等について、法的問題点を調査検討の上、そのひな形を提供し、子会社が作成したものをチェックし、一般的な法的意見を述べ、その対応状況を検証すること
  • 株主総会等の準備事務や議事運営について、法的問題点を調査検討の上、株主総会等の運営に係る会社法上の一般的な取扱い等、一般的な法的意見を述べること
  • コンプライアンスの推進のための社内ガイドラインを提供し、社内教育を実施すること
  • 業務の適正が監督官庁による有効な監督規制を受けること等を通じて確保されている完全親会社が、その完全親会社及び完全子会社から成る企業集団の業務における法的リスクの適正な管理を担っている場合において、その管理に必要な範囲で、当該完全親会社及び完全子会社の通常の業務に伴う契約や同業務に伴い生じた権利義務について、一般的な法的意見にとどまらない法的助言をし、他の法令に従いその法律事務を処理すること

弁護士法72条

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

最高裁判所昭和46年7月14日大法廷判決・刑集25巻5号690頁

同条(※弁護士法72条)制定の趣旨について考えると、弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであつて、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。しかし、右のような弊害の防止のためには、私利をはかつてみだりに他人の法律事件に介入することを反復するような行為を取り締まれば足りるのであつて、同条は、たまたま、縁故者が紛争解決に関与するとか、知人のため好意で弁護士を紹介するとか、社会生活上当然の相互扶助的協力をもつて目すべき行為までも取締りの対象とするものではない。

このような立法趣旨に徴すると、同条本文は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として、同条本文所定の法律事務を取り扱いまたはこれらの周旋をすることを禁止する規定であると解するのが相当である。換言すれば、具体的行為が法律事務の取扱いであるか、その周旋であるかにかかわりなく、弁護士でない者が、報酬を得る目的でかかる行為を業とした場合に同条本文に違反することとなるのであつて、同条本文を、「報酬を得る目的でなす法律事務取扱い」についての前段と、「その周旋を業とすること」についての後段からなるものとし、前者については業とすることを要せず、後者については報酬目的を要しないものと解すべきではない。

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