「リスク検出による適切な契約管理サービスの提供」が弁護士法違反の可能性があるとのR4.10.14付け法務省回答
クラウド上で提供されるリスク検出による適切な契約管理サービスの提供につき、令和4年10月14日、法務省は弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があるとの見解を示しました。
その是非はともかく、正確な議論の前提として法務省の回答をご紹介します。
【事業名】
リスク検出による適切な契約管理サービスの提供
【申請事業者】
リスク検出による適切な契約管理サービスの提供を検討する企業
【法務省回答】
新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表
1.確認の求めを行った年月日
令和4年9月16日
2.回答を行った年月日
令和4年10月14日
3.新事業活動に係る事業の概要
⑴ 提供するサービスの概要
照会者は、電子署名を用いた契約書をクラウド上で作成・保存させる有償サービスである「クラウドサイン」を提供しているところ、これに次の①及び②の手順でリスク検出を行う機能を追加し、もって新規サービス(以下「本件新規サービス」という。)を提供しようとしている(以下、本件新規サービスの提供を「本件新事業活動」という。)。
① 「クラウドサイン」によって契約を締結した利用者が、当該クラウド上に保存した締結 済みの契約に係る契約書のうち、リスク検出を行いたいもの(以下「対象契約書」とい う。)を選択し、委託契約上の委託者、受託者など自分の立場を選択し、「チェック開始」ボタンをクリックする。
② 対象契約書の条項につき、自然言語処理により、照会者が予め作成したチェックリスト と対象契約書の条項の突合が行われ、チェックリストに設けられた当該条項に対応する説 明文が表示される。例えば、当該条項の文言から当該条項が損害賠償請求条項であると判定された場合、後記(2)ウのような説明文が表示される。
⑵ 委託契約書に係る説明文の具体例
ア 再委託の禁止条項に係る説明文の具体例
対象契約書に「受託者は、受託業務の全部又は一部を第三者に委託することはできない。」との条項があったときに、利用者が受託者の立場を選択して「チェック開始」ボタンをクリックすると、「再委託することができない旨が定められています。」などと表示される。
イ 管轄を定める条項に係る説明文の具体例
対象契約書に「本契約に関する紛争については、大阪地方裁判所をもって第1審の専属 的合意管轄裁判所とする。」との条項があったときは、利用者が委託者の立場を選択しても、受託者の立場を選択しても、「チェック開始」ボタンをクリックすると、「管轄が大阪と定められています。」などと表示される。
ウ 損害賠償を定める条項に係る説明文の具体例
対象契約書に「受託者は、本契約に違反し委託者に損害を与えた場合には、委託者に対し、故意または重過失のある場合に限りその損害を賠償する責任を負う。」との条項があったときに、利用者が委託者の立場を選択し「チェック開始」ボタンを押すと、「損害賠償請求できる場合が、故意又は重過失のある場合に限られています。」などと表示される。
⑶ 本件新規サービスの利用者
照会者は、本件新規サービスについて、主に企業法務における利用を想定しており、利用 者は弁護士に限られない。
4.確認の求めの内容
本件新事業活動が弁護士法第72条本文に違反しないこと
5.確認の求めに対する回答の内容
⑴ はじめに
弁護士法第72条本文は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事 件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その 他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又 はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と規定している。
本件新事業活動は、「弁護士又は弁護士法人ではない者」である照会者が、「報酬を得る目的」で「業と」して行うものであることは明らかであり、本件では、本件新事業活動が 「その他一般の法律事件に関して」「鑑定(中略)その他の法律事務」を取り扱うことに当たるかが問題となる。
⑵ 「その他一般の法律事件」該当性について
弁護士法第72条本文に規定する「その他一般の法律事件」に該当するというためには、 同条本文に列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に争いがあり、あるいは疑義を有するものであることが要求される。これに該当するかどうかは、本件新規サービスの利用者とその契約の相手方との関係、契約に至る経緯やその背景事情等といった個別具体的事情を踏まえ、個別の事案ごとに判断されるべき事柄であるから、対象契約書が締結済みの契約に係るものに限られるとしても、そうした個別具体的事情によっては、本件新事業活動が同条本文に規定する「その他一般の法律事件」に関するものを取り扱うものと評価される可能性がないとはいえない。
⑶ 「鑑定(中略)その他の法律事務」について
本件新規サービスは、対象契約書の特定の条項の具体的な文言からどのような法律効果が発生するかを判定した上でその内容を解説する説明文を表示するものであり、これは法律上の専門的知識に基づいて法律的見解を述べるものとして「鑑定」に当たると評価される可能性がある。
⑷ 結論
以上のとおり、本件新事業活動は、弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性 があると考えられる。
なお、本件サービスの提供が弁護士法第72条本文の要件を満たす場合、「正当な業務に よる行為」(刑法第35条)として違法性が阻却されるか否かは、本件サービスの目的、利用者との関係、提供及び利用の態様等の個別具体的な事情を踏まえつつ、関係者らの利益を 損ねるおそれや法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げるなどの弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められるかといった観点から判断されるべきものであり、照会書記載の全ての事実を考慮しても「正当な業務による行為」に当たるか否かを判断することは困難である。