「AIによる契約書等審査サービスの提供」が弁護士法違反の可能性があるとのR4.6.6付け法務省回答
利用者がアップロードした契約書をAI(人工知能)が分析して「法的観点から有利であるか不利であるか等の審査結果」を示すといった事業を始めることが法的に問題がないか、グレーゾーン解消制度により確認したところ、法務省が弁護士法に違反する可能性があるとの見解を示したとのマスコミ報道があり、議論を呼んでいます。
その是非はともかく、正確な議論の前提として法務省の回答をご紹介します。
ちなみに、「法曹無資格者による契約書等審査サービスの提供」につき、令和4年7月8日付け回答において、弁護士法72条本文に違反すると評価される可能性があるとされています。
事業名
AIによる契約書等審査サービスの提供
申請事業者
AIによる契約書等審査サービスの提供を検討する中小企業
法務省回答
新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表
1.確認の求めを行った年月日
令和4年5月6日
2.回答を行った年月日
令和4年6月6日
3.新事業活動に係る事業の概要
⑴ ユーザーは、照会者との間でサービスの利用契約を締結し、所定の料金を支払うことにより照会者が提供するアプリケーション上でAI契約審査サービス(以下「本件サービス」という。)を利用することができる。
⑵ ユーザーは、法務審査を希望する契約書を当該アプリケーション上にアップロードする。
⑶ 照会者は、AI技術を用いて、アップロードされた契約書の記載内容について、ユーザー にとって法的観点から有利であるか不利であるか等の審査結果を当該アプリケーション上で 表示する。
4.確認の求めの内容
本件サービスが弁護士法第72条本文の適用を受けないものであること。
5.確認の求めに対する回答の内容
⑴ 弁護士法第72条本文は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事 件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その 他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又 はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と規定している。
本件サービスについては、同条本文に規定する「その他一般の法律事件」に関して「鑑定 (中略)その他の法律事務」を取り扱うことに当たるかが問題となる。
照会書によれば、本件サービスは、ユーザーが法務審査を希望する契約書をアプリケーシ ョン上にアップロードし、照会者において、AI技術を用いて、当該契約書の記載内容につき、①法的観点から有利であるか不利であるか、②法的リスク、③法的観点から修正を検討 すべき箇所及びその修正の文案、④法的観点から留意すべき事項について検討を促す旨、⑤ 法的なリスクを数値化したリスクスコア、をいずれもユーザーの立場に立ってアプリケーシ ョン上で表示するというものである。
⑵ ユーザーが、本件サービスを利用して法務審査を受ける契約書に係る契約は、その目的、 本件サービスを利用する者(ユーザー)と相手方との関係、契約に至る経緯やその背景事情 等の点において様々であり、こうした個別の具体的事情によっては、本件サービスが、弁護 士法第72条本文に規定する「その他一般の法律事件」に関するものと評価される可能性が ないとはいえない。
次に、本件サービスにおいて、前記①ないし⑤の各事項についての表示をするに当たって は、審査対象となる契約書に含まれる条項の具体的な文言からどのような法律効果が発生するかを判定することが大前提となっており、これは正に法律上の専門的知識に基づいて法律的見解を述べるものに当たり得る。よって、本件サービスは弁護士法第72条本文に規定する「鑑定」に当たると評価され得るといえる。
なお、本件サービスを提供する照会者は、ユーザーが法務審査を受ける契約書に係る契約 の当事者等ではないから、本件サービスによる法務審査が「他人の」法律事件に関するもの に当たると評価され得る。
⑶ 以上によれば、本件サービスは、弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる。